君を呼ぶ声




 ぐにゃりと身体が捩れるような感覚と、無重力のようなふわふわとした感覚が入り交じる。押し潰されてしまいそうな圧迫感が全身を刺激していたのも一瞬のことで、気付けば身体が浮いているような奇妙な状態のまま、ゆっくりと落下しているようだった。
 周囲の空間は濃い色も薄い色も主張し合う、気味の悪い渦で形成されている。しかし落下を続けると段々その色さえも姿を消しはじめた。やがて空間は紺色で充たされる。そこにぽつりぽつりと、夜空の星のように小さな光が出現し、その光の数は下へ行けば行くほど数を増した。周囲の星に囲まれた惑星が宇宙の中を彷徨うような、そんな状態の中でシアンたちはクリスタラインの奥へと呑まれてゆく。
 どのくらい落下したのかすらわからない、紺色の中に光がぽつぽつと存在するその空間に、一行は何かに護られるようにしながら、そっと着地した。
「……ここが……クリスタラインの中……ってか、」
 口の中でそう呟きながらハディスは周囲を見回した。しかし見回したところで見えるのはほぼ同じような風景でしかない。紺色と、周囲を照らす淡い光、それらが不規則に存在するだけだった。
 想像もしなかったクリスタライン内部の様子に、ライエやユーフォリアも呆気にとられている。そこはあまりに静かだった。不死者を生むような様子もなければ、圧迫感やおどろおどろしさもない。
 ゆっくりとシアンは近くにあったひとつの光に歩み寄った。目の前でそれをぼんやりと眺める。それからはっとしたように声を洩らした。
「……この光……、……もしかして……」
 自分に一番近い光を鋭い瞳で見つめながら、シャールは小さく頷いた。珍しく、どこか哀愁のこもったような声で答える。
「……そうだ、……この光が、輪廻に戻れず彷徨い続ける残留思念そのものだ」
「そんな……こんなにたくさんの命が……、」
 口元に右手をあててライエは息を呑んだ。その隣でアルスも苦々しい表情を浮かべている。そして不死者を生み続けているクリスタラインの上方を視線だけでちらりと見上げた。
「この残留思念がクリスタラインによって具現化されて不死者になる……ということか」
 まだ周囲にある光はぴくりとも動かない。不死者になることもなく、ただそこにあるだけだった。それでもそれがただの光でないということは、近付いてみればすぐにわかる。何にも例えることのできない、独特の鼓動をどの光もが持っていた。
 光を見つめるのをやめて、シャールはシアンに歩み寄る。
「このあたりは下層だからな、ベルセルクだとか、強烈な残留思念が停滞している。緩いものほど上方に停滞するようになっているからな……、このへんの奴らがまだ具現化されてねぇってのは不幸中の幸いだ」
「じゃあ、この強い残留思念が具現化されるまでに止めないとね」
 簡単なことをやってしまおうとでも言うように、シアンはさらりと言う。それを見ていたヴェイルは思わず唇を噛んだ。
 落ち着かないのか、ユーフォリアは周囲を少しうろうろとしはじめた。あまりに静かすぎる上に、生命が散乱したようなその空間はあまり居心地の佳い場所ではない。
「それでさ、最後のキーストーンってのはこの中にあるんだろ、捜そうぜ」
 静寂を嫌うようにユーフォリアは言葉を発する。それは決して周囲を急かすものではない。無理矢理にでも、少しでも、明るい空気を流し込もうとしたような声だった。
 ゆっくりとセラフィックはかぶりを振る。
「捜すにしても、あまりに広すぎるよ。それに……シャールやアクセライがキーストーンの存在に気付かなかったのは、不死者とキーストーンの波動とが混ざってたからってことだし、……多分だけど、上層にあるんじゃないかな」
「じゃあどうしようもないじゃんか、」
 やっと歩くのを止めてユーフォリアはセラフィックを見上げた。その視線を受けたセラフィックはシアンを見遣る。
 少しだけ上を見上げてから、シアンは冷静な口調で言葉を紡いだ。
「問題ないと想うよ。どのみちキーストーンは禁忌で無効化しないといけない、クリスタラインの活動を停止させるためにも禁忌が要る、だから……」
「クリスタラインを停止させるほどの禁忌を使えば、その中にあるキーストーンは必然的に無効化できる、ということだな」
 シアンと同じく動じない様子でアルスが言う。シアンは黙って頷いた。
 そっとヴェイルはポケットに手を入れる。そこには11個のキーストーンが入っていた。今までに入手した分も、セラフィックから受け取った分も、先程アクセライから回収した分も、すべてヴェイルが預かって持っている。冷たい感触のその石を集結させればすべてが終わる、ぼんやりとヴェイルがそんなことを考えていると、引き続きアルスの声が聞こえてきた。
「それで、具体的にはどうすればいい。クリスタラインを封印するといっても、その方法が俺にはよくわからないが……、」
「封印それ自体に関しては心配はいらないと想います。クレアがベルセルクの残留思念を封印した方法をなぞれば、キーストーンは集結すると共鳴する……、つまり、最後のキーストーンが無効化された瞬間に封印は完成します。封印するといっても機能を停止させるだけですから、クリスタラインそのものが崩壊することはないでしょう」
 丁寧にセラフィックがそう説明する。なるほど、と真横で聞いていたユーフォリアが呟いた。自分のペィスで状況を理解しようとしているのか、黙ったままでライエは小さく頷く。ハディスも特に何を言うわけでもなく説明の続きを待っていた。
 突然、シャールはつかつかとヴェイルに歩み寄る。そしてヴェイルが何かを言う前に声を発した。
「おい出来損ない、テメェの持ってるキーストーンを貸せ」
「貸せ……って、全部を、」
「当たり前だろうが、こんなとこまできて寝ぼけてんじゃねぇ。アリアンロッドの禁忌を間近で見て無事でいられると想ってんのか、」
 言いたい放題に荒れた口調でシャールは怒鳴るように言う。それは見慣れた光景であるものの、今は少しいつもとは違っていた。シャールの瞳にはすぐに要求に応じないヴェイルへの苛立も勿論ある。しかしそれだけではなかった。
「キーストーンの力を増大させて俺がレジストを張る」
 きっぱりとそう言い切るシャールに向かって、ヴェイルはかぶりを振った。
「それなら僕にだって手伝える。ひとりでなんて負担が大きすぎるよ」
「莫迦野郎が、誰がひとりでやるなんて言った。……テメェにやらせねぇだけだ、ぐずぐず言ってねぇでさっさと貸しやがれ、」
 鋭い視線で睨まれながら迫られて、ヴェイルは勢いに呑まれるようにキーストーンをポケットから出した。それを半ば引ったくるようにシャールは自分の手のひらにおさめる。シャールの意図するところがわからずに、ヴェイルは唖然としていた。
 溜め息をつきながらハディスがヴェイルに歩み寄る。
「……ったく、ものの言い方ってもんがあるだろうが」
 もう既にヴェイルに背を向けてしまったシャールの長い銀髪を見遣って、ハディスは呆れた声を発した。それでもシャールは何の反応も示さない。手の中にあるキーストーンをじっと見つめている。
 それ以上シャールに何かを言うことを放棄して、ハディスはヴェイルの肩に手を置いた。視線をハディスの方に移したヴェイルに向かって、やわらかい表情を浮かべる。
「ヴェイルには別の仕事があるんだよ。代役のきかない仕事が」
 別の仕事、とヴェイルが鸚鵡返しに呟く。しかしハディスが説明するのはそこまでで、視線を外してしまう。ヴェイルが答えを求めようと視線でハディスを追っても、説明は続けられなかった。
 そのヴェイルの方へとシアンは足を進める。そしてヴェイルの目の前でぴたりと立ち止まった。それに気付いたヴェイルが前を向き、二人の視線が絡まる。
 オッドアイは落ち着きをたたえていた。どきりとするほどに澄んでいる。
 ゆっくりとシアンはシルバァリングをすべて外した。がんじがらめに細い指や手首を支配しているリングがひとつひとつ取り去られてゆく。そして外し終わったそれらをすべてまとめると、ヴェイルの方へと差し出した。
 差し出されたリングをヴェイルはそっと受け取る。冷たい感触が手のひらから伝わった。それと同時にシアンの声がする。
「……今まで、ありがとう」
 抑揚はないけれど、その声は決して冷たいものではない。それゆえにヴェイルは胸が締めつけられるような感覚をおぼえずにはいられなかった。何かを言いたいのに、喉の奥があつい。シアン、とその名を呼ぶのが精一杯だった。
 くるりとシアンはヴェイルに背を向ける。そしてシアンが足を進め、ヴェイルから遠ざかろうとしたそのとき、乾いたヴェイルの喉を引きちぎるように声が溢れた。
「駄目だ……っ、」
 ぴたりとシアンが立ち止まる。腕を伸ばすことすら能わずに、それでもヴェイルは必死に言葉を頭の奥から掘り起こした。
「みんなと逢えなくなるのは哀しいって言ってたじゃないか……、……これが最後だなんて……そんなこと想っちゃ駄目だよ!」
 静かな空間に、悲痛な声は大きく響く。
 ヴェイルの声にシアンはぴたりと立ち止まった。けれど振り返ることもなければ言葉を返すこともない。時間が止まってしまったかのように動かない小さな背中をヴェイルは見つめている。
 ふと、細い茶色い髪が僅かにゆらめいたようにヴェイルには感じられた。とても小さく、けれどたしかに頷いたのを、ヴェイルの瞳が捉える。胸が締めつけられ、ヴェイルは下唇を噛んだ。言葉が出てくるかどうかどころか、呼吸をするのにも精一杯で、身体も動かない。少し離れているだけのシアンが、手の届かないほど遠くにいる気がした。
 シアンが精神集中を始めようと神経を研ぎ澄ます。それとほぼ同時にアルスはヴェイルに耳打ちした。
「精神力を増幅させてレメディを使え。フォローは俺たちがする」
 え、とヴェイルが声を洩らす。しかしアルスはそれ以上の説明をしようとしなかった。何事もなかったかのように、アクセサリをはめて精神力を増幅させながらレジストのための精神集中を開始する。
 それでもアルスの言葉はたしかにヴェイルに聞こえていた。戸惑いつつもヴェイルもリングをそっと装着する。そしてゆるやかに癒しの力を生む穏やかな波動を集中させはじめた。
 もう数歩だけ足を進めて、シアンはそこにいるメンバァに完全に背を向けた。
「……みんな、本当にありがとう」
 か細い声が発される。それは聞く者の心を締め付けるようだった。決して強い声ではないが、震えたり迷ったりしている声でもない。まっすぐに淀みなく、そこにある空気をすっと裂きながら、その声は響く。
「ヴォイエントに来て、みんなと出逢えてよかった。……この世界とここに生きる人たちを護るために生きることができて……、倖せでした」
 精神力が高まってゆく。それはシアンの内側から広がり、周囲にある、ありとあらゆるものを包括してゆくようだった。
 術力を増幅させたアルスとユーフォリア、そしてシャールとセラフィックがありったけの力でレジストを展開する。それでも完全には消し去ることのできない衝撃から、ハディスはライエを護っていた。シアンの言葉を思い出してしまえば力が弛みそうで、アルスたちは頭の中を真っ白にするようつとめている。
 その少し後ろでヴェイルの精神力も高まりをみせていた。穏やかな、けれど力を持った波動が募ってゆく。
 僕が、君を護るから。君の居場所と、君を護るから。……必ず。
 自分で口にしたはずのその言葉がどこか遠い処でこだましている。その声に導かれるようにヴェイルは精神力を漲らせていった。
 精神力によって生み出された波動に茶色い髪を靡かせながらシアンは直立している。ほんの少しだけ手を広げれば、周囲の光がシアンの波動に呑まれてゆく。
「偽印の天蓋 粛正の綺羅 ……在るべき流転へ還れ、」
 シアンはぎゅっと目を閉じた。
 張り巡らされたレジストが軋む。この世界すべてを包括してしまいそうなほどの力が、あらゆる方向に向かって伸びる。命の灯火である彷徨う光が、恍惚とさせるほどの煌めきを残してゆっくりと浄化されてゆく。
 それと同時に、シアンの身体に刻まれていた瑕が裂けはじめた。シアンは表情を歪めるものの、悲鳴を押し殺し、精神集中を維持し続ける。
「ヴェイル、ぼさっとしてんじゃねぇ!」
 大声でシャールが叫ぶ。その声に背中を押されるように、ヴェイルはシアンに向かって両手を翳した。
「彼の者に際限なき加護を与えん!」
 呼吸を併せたように、レメディの波動がレジストにぶつかった瞬間、その部分のレジストが一瞬弱まる。軌道を確保したレメディはまっすぐにシアンの方へと伸びてゆく。
 全身全霊の力を込めて放たれたレメディは弱まることも途切れることもなかった。禁忌によるすさまじい波動をかいくぐるように、力強くシアンの方へと着実に近付いてゆく。禁忌にとってレメディは完全に異質な波動であった。しかし相反するものでも、禁忌の威力を弱めるものでもない。抵抗を示しながらも、禁忌の波動はやがてレメディを呑み込んでいった。
 レジストの後ろからライエはその様子をじっと見つめている。
「巧く……いっているのでしょうか、」
「……わからねぇが……今のところはそう見えるな」
 ライエを庇うように立っているハディスが低く呟く。
 しかしその瞬間、すべての力の根源となっているシアンの悲鳴がこだました。それとほぼ同時にヴェイルも苦痛を表情に滲ませる。レジストを展開しながらアルスはシャールの方を見遣った。
「おい、一体どうなっている、」
 ヴェイルの唇から短く悲鳴が漏れているのを耳にしながら、シャールは波動を纏い続けているシアンの方を睨む。波動と浄化を進める光が視界を遮り、シアンの様子ははっきりとは確認できない。
 肉眼と感覚で確認できる分には、禁忌は次々に残留思念を浄化し、レメディはシアンの方へ向かってまっすぐに伸びている。それでも何か異常があることは確実だった。
「……禁忌とレメディの反作用……いや、違う、」
 口の中で低く呟きながらシャールは考えを巡らせる。その傍でセラフィックが突然はっとして叫んだ。
「覚醒だ……、クレアの意識がシアンを支配してる!」
「なんだって! じゃあヴェイルが苦しんでるのって……」
 ユーフォリアが声を荒げる。不安を瞳に滲ませてセラフィックを見上げると、セラフィックは珍しく厳しい表情で首肯した。
「多分……レメディの波動を経由してクレアがアサルトに近い波動を送り込んでる、」
 おそらくヴェイルの耳にもセラフィックの声は届いているはずだった。それでもヴェイルはレメディを放ち続けている。時折、内側から身体を破壊するような痛みが走った。それでもレメディの波動は揺らぐことも弱まることもない。
 途端、今までになかったような強烈な波動がシアンの方から押し寄せてきた。しかしそれが何の波動であるのか、ヴェイルたちにははっきりとわかる。
「……こりゃあ……イーゼルのときの……」
 苦々しい表情でハディスが呟く。レジストを張り巡らしていても、クレアの波動は周囲にいとも簡単に充ちてきている。それは身を貫くような鋭さと戦慄を呼ぶ冷徹さを持ち合わせていた。
 思わずアルスも顔をしかめた。アクセサリが軋んでいるような感じがする。
「このままではレジストが破られるのも時間の問題だ、」
 そのアルスの低い呟きを遮るように、突然シャールが苦痛に充ちた声をあげた。はっとして全員がそちらを見遣る。これまでシャールが悲鳴を発したことなど一度もなかった。しかし今は辛苦をその表情に浮かべ、そしてその場に頽れる。
 必然的にシャールのレジストは中断し、その分の負荷がアルスやユーフォリア、そしてセラフィックにかかった。懸命にレジストを維持するのに精一杯で三人は動けそうにない。かわりにハディスとライエが弾かれたようにシャールに駆け寄った。
 ハディスがシャールの身体を支えようとすると、シャールはその手を振りほどこうとした。しかしその力はあまりにも弱々しい。
「……っ、……そういう……こと、か……」
 荒々しく呼吸をしながらシャールはそう呟く。汗で銀髪が肌にべったりと貼り付いていた。
「そういうことって、一体何がだよ、」
 力まかせにシャールの抵抗をねじ伏せ、しっかりと身体を支えながらハディスが訊ねる。普段なら意固地になってハディスに対してはろくな説明をしないシャールも、今はつまらない意地をはるわけにはいかなかった。
「クリスタラインは残留思念の巣窟だ……、貴様らのような普通の人間は問題ねぇだろうが……肉体と精神がアンバランスだと、思念の作用で精神が暴発しやがる……」
「じゃあ……シャールさんが苦しいのも、シアンさんが覚醒したのも……」
 ライエがゆっくりと震えた声を発する。シャールは頷いて同意を示した。
 クレアの波動は勢いをじわりじわりと増している。シャールが抜けて弱まったレジストは、もはやいつ途切れてもおかしくない状態だった。
「このままじゃやばいって……、一体どうすりゃいいんだよ!」
 なんとかレジストを放ち続けながらユーフォリアは声を荒げる。その言葉はこの場にいた全員が思うことだった。
 ちらりとセラフィックはヴェイルを見遣る。時折苦しそうな表情をするものの、ヴェイルはクレアの波動に屈することなくレメディを放ち続けていた。その横顔に、思い切ったようにセラフィックが叫ぶ。
「ヴェイル、……聖の波動を撃つんだ!」
 その言葉が耳に届くと、ヴェイルの動きは一瞬硬直した。それからあわてたようにかぶりを振る。なんとかレメディを保ったまま、セラフィックの方を向いた。
「セラ、僕には……」
「とにかくやるんだ! ……君がやらなきゃどうしようもない、」
 珍しくヴェイルの言葉を遮ってセラフィックは大声をあげた。
 ヴェイル以外の術が使える人間はすべてレジストに徹し、シャールはもはや疲労しきってしまっている。レジストも押し戻され、そんな状況で人員の交代ができるわけもなかった。
 全員の視線がヴェイルに注がれる。それしか方法はないと、ここにいるメンバァの気持ちが一致しているようだった。
 気が付けばヴェイルの両手は震えている。かたい表情のまま、もう一度かぶりを振りたくなるのを必死に堪えていた。不安と焦りが込み上げてくる。クレアから直接送り込まれる攻撃的な波動は、それを更に贈大させた。
 そのヴェイルに、今度は少し落ちついた声で、セラフィックが声をかける。
「……なにも僕の使うような力でなくたっていいんだ。シアンを解放してあげられれば、それで……。……大丈夫、彼女のことを誰よりも想ってた君なら、きっとできるよ」
「…………、……僕は……」
 ヴェイルの唇が震える。
 ゆっくりと、しかし確実にヴェイルの放つ波動の質は、レメディからなにか別のものへと変化しはじめていた。それはアサルトのような獰猛なものでもなく、レジストのような無気質なものでもない。レメディのもつ独特のやさしさに、芯の強さを与えたような、そんな波動だった。
 僕は、とヴェイルは口の中で呟く。
 クレアから伝わるアサルトをヴェイルの波動はやんわりと呑み込んでゆく。反抗するというわけでもなく、それが当然とでもいうように攻撃的な波動を包んでゆく。
 今までにないほどにヴェイルは声を張り上げた。
「今度こそ君を護るんだッ!」
 途端、波動の衝突から生まれた純白の光が全員の視力を奪った。