動き始めた惨禍




 同刻、シアンは夕暮れの街を歩いていた。
 ぼうっと歩いていると少しI.R.O.から離れた場所まで来ていたが、セントリストに住むようになってから随分と経つ上、散歩も日課のようにしているため道に迷うこともない。オレンジ色の夕陽が市街地を鮮やかに染め、ゆるやかな風が色づいたビルの間を吹き抜けている。
 ぼんやりとあてもなく足を進めていたが、突然遠くから人の声がしてシアンは足を止めた。
 耳を澄ますと前方から何人かの人の悲鳴が聞こえてくる。シアンは声の聞こえる方へ駆けだした。
 一番近くの曲り角を曲がると、そこには人の形をした不死者の姿があった。しかも数体ではない、道路に不死者が何体も溢れかえっているのである。その不死者に襲われて人々が悲鳴をあげ、逃げ惑っている。中には血を流して倒れている人もいた。
(不死者が……どうして……!? 何の気配も感じないのに……)
 一瞬シアンは困惑したが、頭はすぐに今自分がすべきことに切り替わった。不死者がシアンの存在を認知した。不死者の攻撃のターゲットとなってしまっては、逃げるか戦うか、どちらかしかない。しかし攻撃の目がシアンに向いたのは彼女にとって幸いだった。これで周囲の人々は攻撃のターゲットから暫くの間外れることになる。
 上着の内側から二本の短刀を取り出すと、鞘から短刀を抜く。そして襲い来る不死者を流れるような動きで切り裂いた。シアンは普通の人間から考えればとてつもなく身軽だった。次々と絶え間なく繰り返される不死者の攻撃も、その身軽さと跳躍力、それに動態視力を活かして軽々と躱す。そして懐に飛び込んでは確実に不死者を倒していった。
 倒された不死者はアスファルトの地面に突っ伏し、ゆっくりと消えていった。しかし目の前に次々と不死者は現れる。
「半端な数じゃない……かといって市街地で術は使えないし……」
 もどかしさを感じながらもシアンは攻撃の手を休めない。不死者が襲い来る限り、手を休めることは死を意味する。
 素早い攻撃で次々と不死者を薙ぎ倒してゆくと、しばらくして不死者の数は減ってきた。きっとここへやってくる不死者の数を、シアンが倒した数が上回っているのだろう。
(これ……不死者、だよね……何の圧迫感も感じないけど……。でもこれじゃ警察が動くのが遅くなる。圧迫感がなきゃ被害が出てからしか警察は不死者の存在に気が付かない……)
 そう想いながら短刀をしっかりと握り直し、不死者を倒し続けた。次第に不死者の数は数えられるほどになり、最後にはシアンの視界から完全に姿を消した。
 圧迫感によって認知できていれば不死者が完全にいなくなったかどうかわかるのだが、今そういった判断基準は存在しない。しかしそれよりも今は周囲にいる人々のことが気になった。
 周囲の光景は悲惨だった。夕陽に染められた市街地に、人が血を流して倒れている。中には息絶えている人の姿もあった。怪我をした人々がその場に蹲り、怪我をしていない、もしくは軽傷の人々も、パニックに陥っている。
 警察が圧迫感で不死者を察知して動くことができていれば、被害は少なかったはずだ。セントリストの警察の不死者に対抗する力は、民衆を護るのに充分なものである。しかし、それも不死者の出現を察知できなければ意味がない。
 突如血なまぐささが満ちた道を見回して、シアンは近くに蹲っている若い男性に近寄った。この場所でシアンただひとりが冷静すぎるほどに冷静だった。
「……大丈夫ですか?」
「あ、ああ…………。…………君が、……不死者を……?」
 苦し気な表情で顔をあげたその男性は、シアンを見てまさかこの少女が、といったように問いかけた。しかしシアンはそれに曖昧に頷いて答えただけで、男性の傷の様子を見ることに専念した。
 腕から血が流れている。その他に目立った外傷はないようだったが、医学の知識もないため詳しいことはわからない。とにかく流れ続ける血を止めようと、シアンは自分の上着のポケットからハンドタオルを取り出す。そしてそれで男性の傷口付近をきつく締め上げて止血した。
 まだ周囲にも怪我人はいる。シアンは唇を噛んだ。
(これだけの怪我人、私じゃどうしようもない……ヴェイルがいれば……)
 そう想うシアンの横で、男性は怒りと混乱が混ざったような声を発した。
「一体どうなってんだよ…………I.R.O.に通報したのに警察も救急隊も来ない……死人まで出てんのによ……! だいたい……」
 その続きを男性が言いかけたとき、大きな爆発音とともに地面が激しく揺れた。
 突然のことにその場にいた全員が悲鳴をあげた。シアンも短く悲鳴をあげ、体勢を崩した。
 しかしシアンは直感的に危険を察知して、体勢を崩したまま精神集中を完了する。そしてまだ揺れ続けるアスファルトの上で術を放った。
「護法陣……!!」
 半透明の障壁が周囲一帯に生み出される。そしてそれは降り注ぐ高層ビルの割れた窓ガラスや看板をすべて弾いた。
 揺れは次第におさまり、人々も悲鳴をあげるのをやめてゆく。しかし次にシアンの耳に飛び込んできたのは、爆発のあった方向を呆然と見つめた人々の言葉だった。
「今の爆発……C86区画じゃない……?」
「……嘘でしょう……? だって、あそこは避難区域……みんな避難してるんじゃ……」
「おいおい待てよ……俺、親父に先に避難区域に行かせたんだぜ……冗談だろ……?」
「大丈夫よ、だって避難区域には防護壁が……。そう、きっと、きっと大丈夫よ…………きっと……」
 周囲に混乱の声が飛び交った。
 今の爆発があったところは目と鼻の先だった。警察や救急隊がここに到着していないことを考えると、避難区域に到着しているとは考え難い。
 障壁を解いて、シアンは爆発のあった方へと走り出した。何人かがシアンの行動に気付いて止めようする声を発したが、シアンは既に角を曲がって姿を消していた。
(通報したならそのうち警察か救急隊が来るはず……。でも爆発で火があがってたら……)
 爆発のあった方向を感覚だけで感じとり、シアンは走り続けた。そしてすぐに目の前に炎が広がる。予想通り、爆発によって火があがっていた。建物は爆発によってボロボロになっている。
 人の姿は見られない。爆発が避難区域を直撃していたのなら助かる確率は低い。炎は先が見えなくなるほどに勢い良くたちのぼっていた。本来なら市街地で術など使えないのだが、これだけ建物が半壊している状態では極限まで制御すれば何とかなりそうだった。第一、こんな状況を前にして迷っている暇などない。
「穢れなき清らかなる雫を我が下に 万物を鎮めし意志を呼び覚ませ!」
 すぐに精神集中を完了して、シアンは炎に左手を翳した。
 どこからともなく出現した冷気が地面を広がる。そしてそこから水を含む冷気が天に向けて放出され、次々と炎を消していった。
 やがて炎が完全に消え、周囲に焦げた匂いが満ち、嗅覚を刺激した。
 炎が消えた先に、何か黒いものが見える。何かが焦げてしまった跡だろうか、そう想ってシアンがそちらへ近寄ろうとしたとき、軽い爆発音が前方から聞こえた。
 また大規模な爆発がくるかもしれない、そう想ってシアンは一瞬身構えた。しかしその直後、シアンの右腕は突然強い力に引っ張られた。何の警戒もしていなかったシアンは引っ張られるままに体勢を崩す。短い悲鳴があがった。
 しかしそのシアンの耳元で、聞いたことのある声がした。
「シアン、こっちだ!」
 勢い良く引っ張られるまま、シアンは遂に地面に向かって倒れ込んだ。しかしアスファルトに直撃しないよう、声の主が間一髪受け止めた。
 倒れ込んだ先は路地のような場所だった。低い壁と壁の間の場所であるそこは薄暗かった。
 シアンはゆっくり顔をあげた。そして目の前にいる人物を見上げて、軽く驚きを示しながらその名を呼ぶ。
「……セ…ラ……?」
「話は後! 伏せてッ!」
 そう叫んでセラフィックはシアンの身体を抑えた。そして自分も身を伏せる。
 それに一瞬遅れて爆発音が間近で聞こえた。先程とは比べ物にならないほどの地響きが起こる。二人は反射的に悲鳴をあげた。
 シアンは身を伏せたままぎゅっと目を閉じていた。
 あちこちからガラガラという音が聞こえる。いろいろなものが崩壊しているようだった。
 かなりの間、揺れは続いていた。
 二分ほどしてようやく揺れがおさまると、セラフィックはゆっくりと顔をあげた。シアンも身体を解放されてゆっくりと身体を起こす。 周囲に瓦礫の山が築かれている。今までそこにあった建物は跡形も無く崩れ、コンクリートの塊だけがそこにあった。建物の崩壊によって砂埃が周囲に舞っている。その光景の無惨さに、二人は呆然とした。
 二人がいる場所からは空が見えていた。頭上に何もなく、左右にあるのは背の低い壁である。幸い壁はひびが入っただけで崩れなかったが、もし崩れたとしても背の低い壁であれば大した被害にはならない。
「荒っぽいことしてごめんね…………大丈夫?」
 改めて目を合わせたシアンに、セラフィックはそう問いかけた。
 セラフィックは旧エクセライズ社で逢ったときと同じような服装だった。割と丈の長い白いジャケットを着ている。周囲を舞う砂埃の所為か、ジャケットのあちこちが汚れていた。
 シアンはゆっくりと頷く。
「……ありがとう。……セラ、どうしてこんな処に……」
「……君を護るために来たんだ」
「私を……? 今起きてること、あなたは把握してるの?」
「だいたいはね……」
 セラフィックは声のトーンを落として苦々しい表情を浮かべた。
 いつの間にか陽はもうほとんど沈んでしまっている。空気が湿気ていた。昼間の晴天が嘘のように空は一面の黒い雲に覆われている。
 空を見上げてセラフィックは目を閉じた。
「……アクセライが動きだしてる」
「アクセライが……?」
 しばらく耳にしていなかったその名前をシアンは口の中で呟いた。その様子はいつも通り冷静である。
 再びシアンの方に顔を向けて、セラフィックは小さく頷いた。
「止めたけど、止められなかった……。イルブラッドたちは賛同してたみたいだったから、多分一緒に行動してるんだろうけど、僕は賛成できなかったから今回の件からは外れてるんだ……だからどう動いているかの詳細まではわからない。でも、大凡の動きは推測がつくよ。……動きがわかるなら今からでもアクセライを止られるんじゃないかって想ってね」
「そんなことしても大丈夫なの?」
「心配はいらないよ。それに、すべてに賛同するだけが仲間ってわけじゃないし……ね」
 そう言うとセラフィックはその場に立ち上がって「立てる?」とシアンの方に左手を差し出した。その手をとってシアンも立ち上がる。
 空が唸っていた。
 ヒビの入ったコンクリートの建物が軋んでいる。
「とにかく、どこかへ移動しよう。こんな処にいたらいつ建物が崩壊するかもわからない。避難区域へはすぐに警察と救急隊がくる。といっても……さっきの爆発が直撃だったから…………助かる人は少ないかもしれないけど……。でも君が消火してくれたから、多分これ以上は被害は広がらない……あとはプロに任せよう」
「うん。アクセライたち、止めなきゃいけないしね」
「……シアン……」
 一度複雑な表情を浮かべてから、セラフィックは足を動かし始めた。シアンもそれについて表通りに出る。まだ砂埃はおさまっていない。空は今にも泣き出しそうだった。
「ついてきて。詳しいことについては追って説明するよ」
 振り返ってセラフィックはシアンを促す。小さく頷いて、シアンは導かれるままに街の中を駆け出した。










 息をきらしてアルスはC92区画に到着した。C92区画には目立った大通りがあり、そこには既に何人もの警察の姿があった。同じ制服が並び、中には非番だった警察が腕章だけでやってきている姿もあった。何やら慌ただしい空気が読みとれる。
「何があった?」
 近くにいたひとりの若い警察にアルスは問いかけた。アルスの存在に気付いたその警察は、警視正という存在に改まって緊張気味に口を開こうとした。
「け、警視正! 実は……」
「わけわかんねぇ奴らが宣戦布告してきやがったんだよ」
 若い警察を遮って横から男性の声がした。そちらをアルスが見遣ると、そこにはアルスと同じ年齢くらいの警察が立っていた。茶髪でアルスよりも少し背が高く、親し気な視線をアルスの方に向けている。
 その姿を認めて、アルスは割って入ってきた男の名を呼んだ。
「ティラー……どういうことだ?」
 アルスも親し気にティラーに接する。二人は仕事仲間として親しい間柄だった。
 少し考え込むような仕草をしてから、ティラーは右手で軽く手招きをしてアルスについてくるよう促した。
 陽が暮れた大通りに警察が大勢集まり、それぞれの仕事を行っている。街灯が煌煌と光を放ち、あちこちにライトが設置され、その周囲は闇の中でも光に満ちていた。周囲から警察の声が聞こえる。その警察の間を抜けつつ、ティラーは口を開いた。
「今この辺に不死者が出現してんのは知ってっか?」
「ああ……ここへ来るまでにいくらか倒したからな。しかし何の気配も感じなかった。いつもの圧迫感などまるでない」
「だろ? I.R.O.警察<うちら>の本部でレーダーが反応示してんのに圧迫感がねぇもんだから本部も混乱してやがったしな」
「そうか……。ウォルフさんは?」
「本部にいる。総括して指示出すんだと。今セントリストのいたる処が大変なことになってるらしいからな。……あの圧迫感、俺は嫌いだけどな、ないとそれはそれで不便ってことか」
 ティラーはそう言いながら足を止めた。アルスもそれに従う。
 そこには小さな椅子が置いてあり、その上に小型ヴィデオカメラがあった。警察用のもので、I.R.O.のロゴが入っている。椅子の周囲でも何人もの警察が騒がしくしていた。
 ティラーはアルスに「見てみな」と言いながらそのヴィデオカメラを指さした。言われるままにアルスはそれを手にとって慣れた風に操作した。四角いシルバーの本体から自動的に画面がスライドされて現れ、映像が映り始める。
 そこに映っていたのは不死者だった。何体もの人の形をした不死者が道路を占拠している。右上には撮影された時刻が表示されている。今から30分ほど前に撮影されたものらしい。
 暫く映像はノイズと共に流れていた。街の騒音が録音されている。
 しかし突然、そこにおどろおどろしい声が混ざった。
『ヴォイエントの愚民どもに等しき終焉を。ときは満ちた。誤謬を正すことはもはやできはしない。朽ちて消え去れ、苦しみに埋もれながら滅びてゆくがいい。我々の目的はただひとつ、貴様らの死だ。それこそが我々が快哉を叫ぶ唯一の根源だ』
 次々と流れるその言葉に合わせて、映っている不死者の口が動いていた。この不死者たちが言葉を発しているとしか考えられないその光景に、アルスは自分の目を疑った。どんな攻撃を受けても悲鳴ひとつあげたことのない不死者が、言葉を発しているのである。とても常識では考えられなかった。
 アルスが驚いている間もなく続きの言葉が聞こえる。
『すべての愚民どもが我々の敵だ……、今ここにベルセルクの再誕を宣言する』
 そこまで言葉が繋がれると、再び暫くの間ノイズだけが聞こえてきた。そしてまた繰り返しのようにまったく同じ調子の声で同じメッセージが紡がれる。
 アルスはゆっくりと画面から目をそらせてティラーの方を見た。
「これは……」
「ビビったろ? どっかの防犯カメラに偶然映ってたのをウォルフさんが借りてきたらしい。不死者は喋るわ圧迫感はないわ、わかんねぇことだらけだ。おまけにベルセルクだとか何とか……ベルセルクって伝承にあるヴォイエントを占拠しようとしてた奴らの呼称だろ? それになぞらえてやがんだよ」
「ああ……何らかの形でヴォイエントに危害を加えるにあたって、自らをベルセルクのような存在であると定義したいんだろう。人為的なものであることは間違いないだろうな……どんな手を使っているかはわからないが、不死者を介して録音したメッセージをエンドレスで流しているようだった。だとすればそれを仕掛けた人間はセントリストにまだいることになる……何しろ今はシップは完全封鎖されていたからな。そうなればC92区画を通らない限りセントリストからは出られない……そのC92区画を警察が張っている以上、脱出は難しいだろう」
「それが狙いでウォルフさんはシップ封鎖して、ここを張るよう指示したんだろうな」
 ティラーは腕を組んだ。アルスは椅子の上にヴィデオカメラを戻す。そして周囲を見回した。
 警察の声は絶え間なく聞こえるが、その他に目立った音はない。警察以外、誰もここを訪れる気配がなかった。
 暫く考えてから、アルスは本部と連絡を取ろうとした。とにかく起こっていることをできるだけ正確に把握しなくてはならない。
 そう想ったアルスが通信機の入った胸ポケットに手を入れようとしたその瞬間、アルスの背後にあたる方向から爆音が聞こえた。
 地面が軽く揺れる。その場にいた警察全員がはっとして動きを止めた。
 アルスは後ろを振り返った。爆音がしたと想われる場所から煙が上がっている。アルスは闇に立ち上る煙を睨みながら叫んだ。
「観測班!」
 その声が響くと同時に一部の警察が慌てて動き始めた。観測班と呼ばれたメンバーが近くに置かれているコンピュータのキーボードを慌ただしく叩いた。爆発の起こった場所を先程の衝撃のデータを用いてコンピュータが割り出す。
 そして観測班のひとりである女性がコンピュータの画面を見ながらアルスに答えて声をあげた。
「……C86区画……、……。…………警視正!避難区域です!!」
「お、おい……避難区域に人集まってるって情報きてたぞ……」
 アルスの隣でティラーが掠れた声を出す。
 まだ煙を睨んだまま、アルスは舌打ちした。恐らく宣戦布告してきた人物の仕業だろう。
「……ティラー、いけるか?」
「ああ、ウォルフさんがいねぇ状態で、お前が行くわけにはいかねぇもんな。お前にゃ俺らを統括するって仕事がある。好きなように使ってくれよ、指揮官」
 ぽん、と軽くアルスの背中を叩いて、ティラーは低い声を吐き出した。
 その隣でアルスは一度目を閉じた。頭の中を整理する。緊迫した空気の中、彼の頭は冴え渡っていた。
 目を開いて、大きく息を吸い込む。
「D班は至急C86区画へ向かってくれ。C班と観測班はここに残って警備を続行、その他の人間はセントリストの避難施設に分散して当たってほしい。ヴォイエントの人間の命を狙うというメッセージがあった以上、不特定多数の人間が狙われる可能性が高い。何かあればすぐに本部か俺に連絡してくれ。俺はここに残るが、可能な限りの対応をする。……くれぐれも無謀なことはするな。必ず無事に還ってきてくれ。……以上だ」
 アルスの言葉に警察全員が真剣に耳を傾けていた。警視正らしい貫禄がある。
 そして言葉が終わると、全員「了解」と声を揃えた。D班に該当するティラーもしっかりと頷く。
 指示通りに班にわかれて警察は動き始めた。その様子をアルスは黙って見つめている。宣戦布告をしてきた人物に好きにされるわけにはいかなかった。
 空がゆっくりと泣き始めた。